医療保険の拡大で医療費も増加?

わが国でもすべての国民が公的な医療保険に加入する制度が開始されてから実に半世紀もの時間が経ちました。いわゆる皆保険の概念です。
わが国のみならず他の先進国でも、社会保険としてなのか、公的な医療供給としてなのか、その形態の違いこそあれど、すべての国民をカバーする公的な医療制度というものが確立されています。
唯一の例外だった米国も昨年成立した法案によって、3年後までには事実上の皆保険制度が達成される見通しなのです。
ところが、向こうでは未だに医療保険への加入義務化に対して反対意見が根強いといいます。反対意見の根拠のひとつが、皆保険を導入することで引き起こされる医療需要の増加と、それに伴って起こる医療費の高騰なのだそうです。
医療保険と医療費の議論
ところが、本当にそうなのでしょうか。医療保険の拡大が医療費を増大させるのでしょうか。冷静に考えてみると、自明の理とはいえないと思います。
その理由はこうです。保険の存在によって疾患の初期段階での治療を受ける人々が増えるようになると、結果としてより治療費の高くなる重症患者が減少するので、全体として医療費の総額は増加しない可能性がある、ということです。
実際、向こうでも皆保険導入を推進する人々の一部は、「皆保険の導入はむしろ医療費の抑制にも寄与する」と主張しているほどなのです。
一方では、こんな主張もあります。医療保険の拡大による医療需要の大幅な増加が、医療機関の増加や拡張を促すので、それによる供給力の増加によってさらなる需要が喚起されてしまうのだと。
研究から見る医療保険と医療費
医療保険と医療費の関係に関するこれらの議論を踏まえて、近年では経済学者の主導によって実証分析が盛んに行われています。
気になるその成果ですが、分析対象となる国や時代や年齢層や社会階層といったファクターの違いによって結果が異なる部分も散見されるものの、数多くの分析に共通する頑健な結果というのもいくつか出てきつつある状況です。
1965年に米国内で導入された保険を事例とした分析では医療サービスの利用頻度と医療費の支出が保険の導入後に急拡大したことが示されています。
同事例を分析した他のケーススタディでもやはり医療保険の拡大によって医療サービスの利用頻度が増えたとの結論を示しているようです。
もちろん、これで決着ということではありませんが、今後も議論の進展に要注目というところです。
